愛が冷めないマグカップ
神様の部屋の扉を開ける。三人が一斉にあゆみを見た。初めてこの部屋に入ったときよりもずいぶんあゆみを受け入れてくれているのが三人の視線で感じられる。
「あのっ!磐田さん!牛島さん!鳥谷さん!お願いがあるんです!」
あゆみは声を張り上げる。機械の音に負けないように。
「あんたはいつも、お願いばっかりだな」
呆れたように、福耳を震わせながら牛島さんが笑った。
「あのっ!残業してもらいたいんです!ちょっと特別な事情があって…!」
「特別な事情かなんか知らんが、こんな年寄り三人に残業頼むやつがいるか!」
機械を動かしながら、磐田さんが怒鳴る。早踏みのゲンは、ご機嫌ナナメのご様子だ。
あゆみはどうしようかと考えた。本当のことを言って頼み込むしかない。ボーリング場のチケットも今日は持っていない。最高スコアは昨日聞いたばかりだ。
「実は、大きな得意先の仕事なんです!今はうちの取引先ではないんですけど…これがライバル会社より早く、しかも高品質で作れたら、うちに乗り換えてくれるかもしれません!だから…どうしても今日、残業して加工してもらいたいんです!磐田さんと牛島さんと鳥谷さんがいたら、一気に九馬力なんです!品質だって絶対にライバル会社には負けないはずです!だから…お願いします!」
あゆみは、深々と頭を下げた。
自分は何も作れない。だけどどうしても、会社の為に何かしたい。