愛が冷めないマグカップ

自分のためじゃなく








結局、神様三人とマツさんを含め、七人が残業を引き受けてくれた。

材料が到着し、定時でラインが空になってすぐ、磐田さんの指揮で生産が進められた。現役を退いているにもかかわらず、磐田さんの指揮する生産ラインは完璧で無駄がなく、それでいてめまぐるしいスピードで滞りなく流れた。



定時を過ぎて二時間後には完全に起動に乗り、生産スピードもより一層上がっていくのがあゆみの目にも解るほどだった。



あゆみは1時間ごとに全員にコーヒーをいれ、ブラウスの上から作業着のジャンパーを羽織って、仕上がった品物の箱詰めを手伝った。


箱詰めは見た目以上の重労働で、途中で履いていたストッキングがやぶれてしまった。

仕方なく、あゆみは作業着のズボンを借りてまるで職人さんのような格好で仕事をした。

時間も、疲れも気にならなかった。帰りたいとも一度も思うことはなかった。


生産ラインが流れ始めて三時間が過ぎても、誰もやめようとは言いださなかった。



「あと五十だ!」



残業が始まって四時間がたっていた。


磐田さんの声が響き、生産スピードは最高速度に達していた。


あゆみは、七人分の最後のコーヒーをいれた。




「ラスト十個!」



マツさんが叫んだ。あゆみは全員分のコーヒーを加工場のテーブルに置いた。

自分は、何も作っていないのに、今まで一度も味わったことのない達成感だった。



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