愛が冷めないマグカップ



トラックのエンジン音が聞こえてくる。




「豆柴!出来たのか!?」




加工場の入り口にトラックを横付けして、運転席から颯爽と登場したのは小林部長だ。


あゆみと連絡を取りながら得意先と交渉を重ね、予定数が完成したらすぐに持ち込むという話でまとまったらしかった。先方もかなり急いでいるから、少しでも早く納品して欲しいとのことというメールが一時間前にあゆみに届いたばかりだった。




「はいっ!たった今、全数完成しました!」




生産ラインはたったいま、止まったばかりだ。磐田さんをはじめ、四時間の残業をフルスピードで働き続けた社員達は、ようやく終わったという達成感と疲労感に満ちた顔つきをしている。



トラックから降りた小林部長は、残業していたメンバーに向けて言った。



「これからすぐに納品して、向こうで品質チェックがある。全数合格が出たら、山内金属に現在発注している品物の三分の二を、うちに切り替えるそうだ!」





「おおっ!」「やった!」「すげえ!」といった感嘆の声があちこちから聞こえた。

山内金属に勝ったのだ。あとは品質チェック次第だけれど、誰もが品質と精度には絶対の自信を持っている。あゆみはほっとしたのと嬉しいので思わず泣きそうになった。同時に、どっと襲ってくる疲労感。




「おい、豆柴」



「は…はいっ」




小林部長があゆみを見下ろしている。なんだろう。少しくらいは、褒めてもらえるのだろうか。いや、甘いか。




「お前…作業着、ぶっかぶかだな」




「…え…」




小林部長はあゆみの姿を見てぶっと吹き出した。







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