愛が冷めないマグカップ








浪岡さんが入院している病院は、会社から車で三十分ほど離れた場所だった。




笹原主任の運転で、助手席にはあゆみ、後部座席に宮間さんが乗り、途中でお見舞いのフルーツ盛りとお茶菓子を買った




検査の結果、命に別条はなかったらしいと周さんからは聞かされていたけれど、やっぱり浪岡さんの顔を見るまでは気持ちが落ち着かなかった。きっと、笹原主任も宮間さんも同じだろう。




地元で有名な総合病院に到着すると、三人は病棟の七階へと向かった。



七階の入院患者はお年寄りばかりで、薬品と排泄物とアルコール消毒の入り混じった独特の匂いが漂っていた。グリーンのカーテンで仕切られた部屋がいくつもあり、浪岡さんの名前を見つけるのも一苦労だった。

ようやく見つけた部屋は四人部屋で、パジャマ姿の痩せた老人が入り口に車椅子でぼんやりと座っていた。
あの元気な浪岡さんがこんな人たちに混じって入院しているのだなと思うと、改めて浪岡さんの若さを実感する。





「浪岡さんは、奥のベッドかな」




笹原主任が一番に部屋に入り、あゆみと宮間さんもそれに続いた。




「浪岡さん、調子はどう?」




笹原主任が、ボリュームを落とした声で浪岡さんに呼びかけるのが聞こえた。

あゆみと宮間さんもカーテンを捲り、浪岡さんの顔を見た。




「あんた達まで来てくれたんだね。




浪岡さんがふたりを見た。やっぱり少しだけ元気がないように思える。







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