愛が冷めないマグカップ
「そうしてくれ」
小林部長はいつも通りソファーに腰掛ける。 あゆみが給湯室へ戻ろうとすると、「ああ、そうだ」と小林部長が言った。
「きのうの品物だけど、品質チェックで全数オッケーが出たそうだ。精度も速さも、山内金属とは比べものにならないって担当者もベタ褒めだったぞ」
「本当ですか?!…よ…よかったぁー!」
あゆみは胸を撫で下ろした。やっぱりうちの会社はすごい会社かもしれない。職人さんたちの技術と底力はただものじゃない。磐田さんたちだって、まだまだ現役に負けてない。
「よくやったな、豆柴」
「…えっ?」
(…いま、褒められた…?)
「お前なら、浪岡さんの後継ぎにもなれるよ」
「そんな…。やってくれたのは、磐田さんや牛島さんや鳥谷さんやマツさんですから…。わたしはただ、お願いして見ていただけです…」
あゆみは恥ずかしくなってしたを向いた。褒められるべきなのは職人さんたちで、自分ではない。そう言いたかった。
「いいんだよ、それで」
「えっ…」
「お願いしてやってもらえるのも、お前の良さだ。相手を嫌な気持ちにさせずに仕事をさせるのも、お前の仕事だ。わかるか?お前の態度や動きひとつで、働く人間のモチベーションが変わってしまうんだ。それだけ、大切な仕事なんだよ」
「…小林部長…」