愛が冷めないマグカップ



「そんなに嫌そうな顔されたの、初めてだよ」


苦笑しながら小林が言った。



「すみません…」




「いや、謝らないで。余計に惨めだから」



「あ…ハイ…すみません…」




思わず下をむいて呟いたあゆみを見て、小林はぶっと吹き出した。



やっぱりこの人は苦手だ、とあゆみは思った。どうしよう、これから自分は彼の部下になるというのに。




「俺のこと、苦手だとか思ってるだろ」



「えっ…」



どうしてバレてしまったんだろう。そんな素振りを見せたつもりなんてなかったのに。




「あゆみちゃん、顔に出ちゃうタイプだよな。まぁ、今は俺のこと苦手でも、そのうち好きにさせてみせるけどね」


冗談なのか本気なのかわからない。軽い調子でそう言うと、小林はスタスタとあゆみの前を歩き出した。

あゆみが慌てて後を追いかける。今日はどうやらこの追いかけっこだけで1日が終わりそうだ。




「ま…待ってください部長っ!」



小林が振り返る。



「隼人でいいよ、あゆみちゃん」



からかうように小林は言う。



「そんなの無理です!」



「お、あゆみちゃんも言いたいこと言えるようになってきたじゃん。それでいいよ。うちの会社ではね、自分の意見をはっきり言えないとやっていけないから」




もう完全に、この人のペースに乗せられている。

あゆみはぐっと黙り込んだ。






< 15 / 166 >

この作品をシェア

pagetop