愛が冷めないマグカップ
「そんなに嫌そうな顔されたの、初めてだよ」
苦笑しながら小林が言った。
「すみません…」
「いや、謝らないで。余計に惨めだから」
「あ…ハイ…すみません…」
思わず下をむいて呟いたあゆみを見て、小林はぶっと吹き出した。
やっぱりこの人は苦手だ、とあゆみは思った。どうしよう、これから自分は彼の部下になるというのに。
「俺のこと、苦手だとか思ってるだろ」
「えっ…」
どうしてバレてしまったんだろう。そんな素振りを見せたつもりなんてなかったのに。
「あゆみちゃん、顔に出ちゃうタイプだよな。まぁ、今は俺のこと苦手でも、そのうち好きにさせてみせるけどね」
冗談なのか本気なのかわからない。軽い調子でそう言うと、小林はスタスタとあゆみの前を歩き出した。
あゆみが慌てて後を追いかける。今日はどうやらこの追いかけっこだけで1日が終わりそうだ。
「ま…待ってください部長っ!」
小林が振り返る。
「隼人でいいよ、あゆみちゃん」
からかうように小林は言う。
「そんなの無理です!」
「お、あゆみちゃんも言いたいこと言えるようになってきたじゃん。それでいいよ。うちの会社ではね、自分の意見をはっきり言えないとやっていけないから」
もう完全に、この人のペースに乗せられている。
あゆみはぐっと黙り込んだ。