愛が冷めないマグカップ
真剣な目が、まっすぐにあゆみを見つめていた。
君にしかできないことがある、だなんて。
そんな恥ずかしくて口に出来ないようなクサイ台詞を、どうやって受け止めたらいいのだろう。
ただ、なぜだかわからないけれど、涙がこぼれそうだった。
得意なことと、そうじゃないことがある。あゆみは、初めての就職先でそれを嫌というほど思いしらされた。
ノルマを達成できずに自分で商品を引き取るたびに、いったい何をやっているんだろうと思った。会社にとって、自分は必要な人間ではないのだと言われているような気がしてたまらなかった。
会社を辞めたあとも同じだった。
一年も我慢できずに会社を辞めた自分をまともに評価してもらえるはずはなく、四年制大学を卒業したくせにフリーターという看板を背負って歩いた三年半は、思い出したくもないほど惨めなものだった。
「わたし…わたしにも、できることがあるでしょうか…」
あゆみは目に涙を溜めて言った。
大学を卒業してからの四年間、涙を流したことは一度もなかった。
甘えられる相手もいなければ、涙を流す余裕さえもなかった。
小林は、あゆみが目に涙を溜めていることに気がついて、一瞬驚いたように見えたけれど、それには触れずに言った。
「それは、あゆみちゃんが自分で見つけるんだよ」
あゆみは、黙って頷いた。
あゆみに聞こえないように、小林はぼそっと「俺はもう見つけたけどね」と呟いた。