愛が冷めないマグカップ
「自分にはできないと思ってる?」
小林はあゆみを見下ろした。あゆみはなにも答えられなかった。できないと言えば明日から来なくていいと言われてしまうかもしれないし、できますと言ってもきっとすぐには出来ないだろう。もしかするとずっと出来ないままかもしれない。
「人にはね、だれでも得意なこととそうじゃないことがあるんだ」
小林が言った。視線は神様たちのほうを向いている。神様たちは既に小林とあゆみのことなど見向きもせずに、黙々と仕事を続けている。
「俺だって、ひっくりがえってもあの人たちのようにはなれないよ。だけどね、あの人たちは、自分の技術を他社に売り込むようなことはしない。したこともないし、しようと思ったことさえないはずだ。自分たちの技術がどれほど凄いか、そんなことはあの人たちは考えていないんだよ。彼らは根っからの頑固な職人だから。技術を売り込む、営業マンのようなことは決してしない。それを代わりにするのが、俺の仕事なんだよ」
小林はそう言うと、あゆみの顔を覗き込んだ。
「俺は、同じように、君にしかできないことがあると思う。だから君を選んだんだよ」