愛が冷めないマグカップ



この会社の事務所は3階にあるということだった。3階まで行くのにも、小林はやはりエレベーターは使わずに、タンタンタンと長い脚でリズミカルに階段を上った。

さすがのあゆみも3階まで階段で一気に上ると少し息が切れてしまったけれど、小林は息が切れるどころか、後から上って来るあゆみを待つ間に鼻歌まで歌うほどの余裕だ。



「あゆみちゃんはエレベーターでも良かったんだよ」



小林が、呆れ顔であゆみを見下ろすと、あゆみは「そんな訳にはいきませんから!」と少し強がって答え、階段を上りきるとふんっと鼻息を吐いた。



小林は笑いを堪えながら言った。


「3階の事務所はおもに三つの分野にわかれているんだ。得意先と直接やりとりする営業事務、材料の手配をする資材事務、納期管理と検査をする生産管理事務」


自分の仕事はそのどれに当たるのだろうとあゆみは思った。細かい仕事内容については募集要項にも記載されていなかったし、面接の際にも話しはなかった。



「あのう…」


あゆみは恐る恐る、小林を見上げながらたずねた。


「わたしは…わたしはどの仕事をすることになるんでしょうか」



小林が、えっというふうにあゆみを見た。

不安そうなあゆみを見下ろすと、小林はあゆみの肩にぽんと手を置いた。



「あゆみちゃんにはその全ての仕事を覚えてもらうことになる。俺の補佐をするには、この会社の誰がどんな仕事をしているか、全て把握してもらわなきゃいけないから」


あゆみはごくりと唾を飲み込んだ。

そんなこと、いきなり言われても困る。



「大丈夫、君ならきっとできるはずだ」










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