愛が冷めないマグカップ
根拠のないその自信はいったいどこから来るのだろうか。自分のような何もない不器用な人間に、本当に部長補佐などできるのだろうか。採用してもらえたことはありがたいけれど、そんな風に言ってもらってもあゆみにはどうすれば良いかわからなかった。
「おはよう!」
ガラス扉で仕切られた真新しいオフィスに小林が入っていく。金属特有の匂いがたちこめる1階の加工場に比べると、清潔で爽やかな事務所だった。3つの島に分かれて並べられたデスクも清潔感のある白で統一されている。金属加工工場のオフィスにしてはかなり洗練されている印象だ。
綺麗なデスクで仕事をするのは、年齢層も雰囲気も、服装も様々な女性社員たちで、立派なお尻で椅子にどっぷり腰掛けた白髪交じりのおばさん事務員もいれば、華やかなスカートに緩い巻き髪の若くて綺麗な事務員もいる。
作業着のジャケットを羽織ってデニムパンツにスニーカーという事務員とは思えないスタイルの女性もいる。
服装に規定がないとはいっても、あまりにも統一感がなく、ずっと制服で働いていたあゆみにとっては、オフィスとは言い難い不思議な光景だった。
3つのそれぞれの島の一番奥のデスクでは、若い作業着の男性社員がパソコンに向かって仕事をしている。
「今日から僕の補佐をしてもらいます。桜庭あゆみさんです!みんなよろしく!」
小林が、オフィスに入るなり大声で叫ぶと、社員たちの視線が一気にあゆみに注がれた。