愛が冷めないマグカップ
「どう?少しは慣れた?」
通勤電車に揺られながら、宮間沙耶があゆみに聞いた。
初めて電車で一緒になってからはほとんど毎日同じ時間の同じ車両で、いつも一緒に通勤するようになっている。
「少し慣れました。宮間さんがいてくれるおかげですけど…」
人見知りのあゆみにとって、明るく裏表のない宮間沙耶の存在は大きかった。
実際に、社長室にいることの多いあゆみが事務所に行くと、若い女性社員からあからさまに嫌な顔をされることも多いのだ。特に小林部長にご執心の石橋エリカはあからさまに嫌な顔はしないものの、ちょっとした言い方にいちいち棘があり、あゆみの質問に対して「そんなこともわからないの?」というような顔をすることもしばしばだ。
「あゆみちゃん、おおげさ!」
宮間沙耶はいつものようにアハハと笑い飛ばしたが、あゆみは真剣だった。
彼女に初めて桜庭さんではなく「あゆみちゃん」と呼んでもらったときも、その場でキャーと叫びたくなるくらい嬉しかったのだ。
「大袈裟なんかじゃないですよ!石橋さんはコワイし…小林部長はあんな感じだし…」
「そうだよね、石橋さんはちょっとキツイかもね。あたしも見てて、ゲッて思うこと多いもん。こないだも、浪岡さんが石橋さんに、『アンタは美人だけど性格悪い』って言っちゃったらしくてさ、事務所が凍りついたって」