愛が冷めないマグカップ



(浪岡さん…そんなこと言ったんだ…)



あゆみは話を聞いただけで背筋がぞっとした。

八十歳になる浪岡さんは、ただの優しいおばあちゃんではない。社内一の発言力を誇る影の大ボスなのだ。




「あたしは笑っちゃったけどね、その話聞いて。エリカ様も、おばあちゃんには敵わないんだなって」




(わたしはまったく笑えないけど…)




「そういえば、あゆみちゃん、社員旅行行くの?」




「社員旅行?」




「そう。来月だよ。うちは基本的に全員参加なんだけど」




そういえば、給与明細の封筒に、社員旅行の案内らしきものが一緒に入っていたことを思い出した。




「でも…わたしはまだ一ヶ月も働いてないですし…」




「温泉らしいし、せっかくだから行こうよ!あたしも行くしさ」




あゆみはううんと頭を抱えた。




(宮間さんが一緒なら…行きたいけど…)



エリカ様や、他の女性社員も一緒だというのは気が重いなとあゆみは思った。

小林部長は参加するのだろうか。それならばなおさら、自分は行かないほうがいいのではないだろうか。



「ちょっと…考えておきます」





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