愛が冷めないマグカップ
宮間さんから誘われたことが嬉しくて考えるとは言ったものの、なぜか嫌な予感しかしない。直感ではあるけれど、やっぱりやめておこうとあゆみは思った。
会社に着くと、珍しく小林部長が社長室にいなかった。
あゆみは給湯室でコーヒーをドリップしながら小林を待ち、マグカップを準備した。これも毎日の習慣になりつつある。
あゆみが思った以上に、小林はこのマグカップを気に入ってくれているらしかった。
「あ、笹原さん、おはようございます」
「桜庭さん、おはよう」
営業主任の笹原さんが、マイカップを手に給湯室へやって来た。あゆみは「笹原さんのぶんも、一緒にいれます。笹原さんは、ブラックでしたよね」と言いながら、ポットのお湯を少し補充した。
「ありがとう。今度の社員旅行、きみも行くの?」
笹原主任は笑顔で言った。
(みんな社員旅行の話ばっかりだな…)
「いえ、あたしは…」
あゆみが言いかけると、笹原主任の後ろから小林部長がにゅっと顔を出した。
(わ、イケメンがふたり並ぶとすごい迫力…)
「もちろん行くよ、な?それよりあゆみちゃん、俺のコーヒーまだ?」
「あっスミマセン。すぐにお持ちします」
「ダッシュね。笹原くんは、自分でいれてくれよ」
小林部長は、それだけ言うとさっと社長室に戻って行った。
(いつの間に来てたんだろ…。ていうか、なんで社員旅行行くって勝手に決められてるんだろ)