生意気なキス
「そんなことないよ、似合うって」


「似合わない」


「いいじゃないですか、俺しかいないんだし」



断っても粘り強く言われて、誰も見てないし、まぁいいかと承諾すると、いきなり頭を引き寄せられ。

喫煙室に彼が持ってきていたおしぼりで、ほとんどとれかけていた口紅をぬぐわれ、グロスのような美容液を塗られた。


何を拭いたのか分からないようなおしぼりでふかれ、しかも雑な塗りかたに文句を言おうとするけれど。



「あ......」



自分の唇から甘い紅茶の匂いがして、文句を言う気分もそがれた。

リラックスできるような、甘くて優しい匂い。
それに、グロス独特のベタベタとした感じがなくてつけ心地も良い。

 
スマホのカメラ機能で唇を見ると、ところどころ塗れてなかったり、いい加減に塗られていた。でも......。


新商品を試しても、何をつけても変わらないような気がして、ときめくことがなかったのに。

なぜか分からないけれど、雑に塗られたグロスに、私は確かにときめきを感じた。


貸してと、彼からグロス風美容液を奪い取り、スマホを見ながら、丁寧に塗り直す。


丁寧に塗り終わると、うっすらとピンク色になったくらいで、色は素の唇に近いけれど。

元の唇の色より血色が良くなったように見えるし、自然なツヤがプラスされて、断然こっちの方がいい。

この唇、すごく、好き。


こんなに素に近いメイクなんて今までしたことなかったけど、あざとくない自然な可愛さのソレは、久しぶりにメイクをして綺麗になることの楽しさを思い出させてくれる。
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