今日もまた、君を探す。
学校は、しんどかった。
生き地獄のようだった。
美優が僕にあいさつをすることはなくなった。
代わりに、
「ニノくん、おはよ。」
「ウサミちゃん、はよ!」

吐きそうになった。
そんな僕には目もくれず、美優はニノの元へ行き仲良さそうに話し始めた。
僕の目の前でそんな事が繰り広げられ、僕はたまらず外へ飛び出した。

屋上へ向かった。
空が綺麗で、余計に悲しくなった。

その日は1日中、空を見て過ごした。
授業は全部サボった。
2人に会いたくなかった、から。
空がだんだんとオレンジ色になってきた時、ケータイが鳴った。

メール1件受信:送信者ニノ

ニノからのメールだった。
僕は恐る恐るメールボックスを開いた。
何が書いてあるんだろう…。

『教室で、待ってる。』

一言、そう書いてあった。
僕は走って教室へ向かった。
何かとても大事なことの気がしたから。

ドアを開くと、ニノがいた。
美優は見当たらなかった。

「…よぉ。」

ニノはこっちを向くと、

「…おっす」

と、笑った。
ニノは、ニノのままだった。

「話って、なんだよ。」
と、僕は言った。

ニノは淋しそうな表情で
「オレ、思たんや。ウサミちゃんに必要なのは、オレやないんや。」
と言った。

僕は困惑した顔で
「なんでだよ、あんなに仲良さそうにしてたじゃんか。」
「今更そんな事言うなよっ!」
と言った。

ニノはうなづきながら、
「そうやな。オレは自分勝手やったと思う。お前には言ってへんかったが、オレはウサミちゃんが好きだった。一目惚れってやつやな。お前とウサミちゃんがくっついた時は諦めて、応援しよう、と思た。
でも、やっぱ悔しかってん。だから、ウサミちゃんに告白された時、お前のことなんか気にしないでオッケーしてもうた。
すまんかった。ホンマに。」
と言った。

「なら、いいじゃねえかよ。美優のそばにいてやれよ。美優が望んだんだろ?お前と一緒にいたい、って。
お前もその方が幸せだろ?」

「ちゃうんや。ウサミちゃんは、無理矢理、お前に嫌われようとしたんや。ウサミちゃんはオレといるとき、精一杯、楽しもうとしてくれた。たくさん、笑ってくれた。でも、心から笑ってくれたことなんて、一度も、なかった。
お前といる時に見せた笑顔を、オレに向けてくれることは、なかったんや。」
「今日、ウサミちゃんに、フラレたんや。そのとき、色んな事を聞いた。『私とより、美雨さんと一緒の方が、大和は幸せになれる。』って、言ってたんや。『美雨さんは、私より大和のことをずっと長く愛し続けてきたのに、私が邪魔するなんて、イヤ。』ってな。
ずいぶん謝られたわ。『利用してごめんなさい』って。オレはウサミちゃんと一緒にいれて、短い間でも、肩書きだけでも、ウサミちゃんの『彼氏』に、なれて幸せやった。って言った。」
「ウサミちゃんは、優しい子やな。『好きでいてくれて、ありがとう』言われたわ。あんなに、強くて、優しい子、めったにいないわ。」
ニノは全て話してくれた。

「…なんで、今、言うんだよ…。」
必死に絞り出した言葉がこれだった。


「ウサミちゃん、引っ越すんやって。」


…は?
嘘だ。


「お父さんの暴力がひどくなったらしい。お母さんの実家へ行くんやって。飛行機の距離や。」


そういえば、美優に最初に会った夜言ってきた。
『避難している。』と。
僕はその避難場所を奪っていたのか。
最低だ。クズだな。

「…僕に、会う資格なんて、ないよ。」
僕は透明な涙をこぼしながら言った。

その瞬間、ニノが僕に掴みかかってきた。

「お前の資格なんてどーでもいいんじゃドアホ!お前が会いたくなくても、ウサミちゃんはお前が好きなんや!お前には美雨さんがいるかもしれんが、ウサミちゃんにはお前しかいないんや!引っ越すんやで!?もう会えないかもしれないんやで!?ウサミちゃんは会いたくて仕方ないけど、お前につらい思いをさせないよう、自分のことを忘れてもらえるよう必死なのに、お前は自分のことしか考えてないんか!?」

ニノはもうぐしゃぐしゃになる程泣いていた。

「明日の、10時発の便や。頼むから、会ってやってや…。」

ニノは、そう言うと、教室から飛び出した。
どのくらい、話していたんだろう。
外には、月が浮かんでいた。
あいつの、肌のような月が。
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