管狐物語
「っ‼︎」
がばっと焰は起き上がった。
はぁはぁと荒く息をつき、額には脂汗が浮いている。
次郎とのやり取りの後、どうにもやり切れない思いで、皆がいる部屋に戻る気もせず、適当に空いている部屋に入り、腹がおさまるのを待っていた。
そうしているうちに、眠ってしまったらしい。
焰は、乱暴に額の汗を拭う
ー また、あの夢かよ…
ちくしょうっ!
がんっ、と拳を思い切り畳に叩きつける。
何度もこの夢にうなされ、目の前で彼女が死んでしまうのが分かっているのに、助けることもできない。
もどかしいやり場のない怒りで、どうしようもなくなる。
焰は立ち上がり、夜風に当たるために、縁側に出た。
春の風が心地よく汗をかいた身体を包む。
月が綺麗に見えて、縁側を明るく照らす。
焰は月を見上げ、気持ちを落ち着かせようとした。
それなのに、焰の気持ちは落ち着くことはなかった。
不甲斐ない自分への怒り。
彼女を死に追いやった「あの男」への憎悪。
忘れて、気持ちを切り替えろと言った次郎の言葉。
力もない気の弱そうな、新しい主に使えなければいけない事。
全てがもどかしく、やり切れなかった。
月光に照らされた焰の髪が、紅く染まっていく…。