エンジェル
 「絵の具で塗ったみたい」
 ユミリがあの時と同じように空を見上げながらいった。
「そうだな」と声を落として翔太がいい、「空は本来、白、なのかもしれない」と空を見上げた。
「どうして?」と、あの時と同じように目を輝かせながらユミリが訊いた。
「その時の、感情によって色が変わるから」
「アーティストだね」とユミリ。
 曲を仕上げられない焦り、理解者であった父親を亡くした孤独、全てにおいて減退した翔太は自殺を図った。しかし、それは愚かな考えだった。希望はある、一人だと思った。常に、評価されてもそこには妬みや嫉妬がはびこり、真の理解者はもういないと思った。でも、ファンがいる、そして今ではエンジェルがいる。
「あの時、別れ際にユミリは手を出した。何がしたかったんだ?」
「手を繋ぎたかった、翔太と。綺麗な手をしてる人に悪い人はいないから。女の直感よ!」
「だと思ったよ。『エンジェル』という曲は、あの時の後悔から生まれた」
"君に手が届かなくて、君に手が届かなくて、君に手が届かなくて”
「ねえ、ハイ!」
 ユミリが左手を広げた。翔太は、しっかりと今度は迷いなく、ユミリの手を掴んだ。二人は微笑えみ歩き出した。
「翔太には、今の空は何色に見えてる?」
 ユミリは訊いた。
「白かな」
「なんで?」
「これから始まるんだよ、俺らは。空には翼が生えてる」
 二人は空を見上げた。人は後悔だけはしてはいけない。後悔を消化する事ができたら、また空が違って見える。翔太は握りしめる手の力を緩め、やさしく包んだ。


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