誘惑のプロポーズ
「ねえ、さっきのはプロポーズ?」
「あれでいいなら」
「え?」
「人に聞かれたら、会社の屋上でヤりながら
言われましたって?」
「それは……」
「今晩やり直すよ、計画があったんだ」
「そうなの?!」
いったい、いつから計画してたのかしら?
「ただしこの香りをさせてたら、
意味ないぞ?」
「へ?」
「屋上の部分が、家のベッドかソファーに
変わるだけだ。すげー激しく、って形容詞
のおまけつきで」
「そんなに気に入った?この香り」
「わざと煽ってるのか?!」
「ち、違うわ」
サッと身を引くと、彼は髪をかきあげながら
『初めて外でシた』って、くくっと笑った。
「私だって……」
柄にもなく真っ赤になる私の顔を見て彼が
ふいに真面目な顔になった。
「実穂」
「なぁに?」
「愛してる」
不意打ちの言葉に瞳が揺れる。
「そんな顔されたらまたしたくなるだろ」
甘く囁く声に涙がこぼれだす。
「もうダメよ」
優しく涙を拭う手に自分の手を重ねた。
「私も愛してるわ」
そっと唇を重ねると、彼の唇がまた意思をもって動き出す。
「だめっ…ここでは……」
「わかってる…俺だってこんなつもりじゃ
ないんだが……」
そう言いながら首筋に鼻を付けて、大きく息を吸い込んだ。
「実穂、早退しろ」
「はっ?!」
「こんな匂いさせて社内にいられたら、気が
気じゃなくて仕事にならない」
「卓巳?」
「もう辞めんだからいいだろ」
辞めるかどうかはまだ決めてないし……
「でも……」
「つべこべ言ってるともう一回するぞ!」
「わかった、わかりました!」
誘惑の香り恐るべし……
北川、からかおうとしてごめん。
果乃ちゃん可愛い顔して本当は小悪魔だったんだね。
秘書課に戻り『体調が悪い』と言うと、
誰もがみな常務の状況から察して疑うことなく、気遣いの言葉と共に早退させてくれた。
家に帰ると気合いを入れて身支度をした。
もうすぐ彼がやって来る。
「さてと」
計画されたプロポーズを楽しみにビールを飲みながら、果乃ちゃんからもらったサンプルの残りを胸元と内腿につける。
だって。
プロポーズのシチュエーションなんて、
誰かに教えるつもりはないもの。
Fin


