愛されることの奇跡、愛することの軌跡
『ここは、"リビング"じゃなくて"茶の間"というべきかな。さ、入って』

"昭和"にタイムスリップしてきた気分。

誰も住んでいない割には畳は新しく、い草の香りが強くする。

『この匂いと、都会の喧騒から割りと簡単に避けられる静かさが気に入って、時々1人で泊まってるんだ』
「へぇ」

キッチン…いや、台所に冷蔵庫があるけど、それ以外の電化製品が見当たらない。

『エアコンがないから、今の季節じゃないと、寒いか暑いかで結構大変なんだよね』

すると、健吾さん、携帯電話を取り出して電話をかけ始めた。

「橋本です。申し訳ありません。娘さんを僕の我がままで色んなところに連れ回してます。…日付変わる前にはお返ししますので、よろしくお願いします」

健吾さんは、携帯を畳むと、テーブルの上に無造作に置いた。
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