愛されることの奇跡、愛することの軌跡
健吾が私にさっき着せてくれたダボダボのトレーナーからは、洗い立ての柔軟剤の香りがする。


「あなたたちがキャーキャー言ってるその人と、私は一緒に演奏したんだよ、っていう自慢」


『でもお前、あの後自慢してる素振りなかったじゃん』


「いいの。私の心の中だけで十分」


『そこなんだよな』


健吾は私の頭を撫でていた手を休めた。


『俺は、自慢したい』


「え?」


健吾は密着していた互いの体を離し、代わりに私の額に自分の額をくっつけた。


『玲奈のこと、こんなに魅力的な女性が俺の彼女なんだって、みんなに自慢したい。そして、今日の三浦みたいなヤツの息の根を止めたい』


「穏やかじゃない表現だね」


『俺は、本気だぞ。だから、これからも可能な限り、側にいるから』


「よろしくお願いします」


私は健吾にキスをした。


こんなことを言う健吾だけど、自分磨きにも余念がない。
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