愛されることの奇跡、愛することの軌跡
だから姉でありながら、姉のことをほとんど分かっていない弟。


玲奈と陸くんの姉弟は、フランクな間柄だけど、陸くんはきちんと"姉貴"と呼んでいる。


だからって、さすがに童貞喪失の話までは、いくらそんな姉でもなかなかできないとは思うけど。


成瀬川邸の実穂の部屋。


正直、前回はいつ入ったのか忘れてしまうほど、入る機会がない。


ドアをノックして入ると、実穂はベッドから起き上がり、マタニティ関連の雑誌を見ていた。


『健吾、珍しいのね。あなたから連絡してくるなんて』


実穂はやや力のない声だ。


「具合、大丈夫なのか?」


『全然、ご飯が食べられないの。だからさっき点滴打ってもらっちゃった』


「そうか…」


『でも、大丈夫よ。病気じゃないんだし、安定すればね。悪阻は人によって重さ軽さがあるみたいだけど、私、かなり重いみたいでさ。今が耐え時』


実穂はそう言って広げていた雑誌を閉じた。


「なぁ、実穂」


『ん?』


「何で、妊娠したんだ?…っていう聞き方が正しくないのは分かってるけどさ」
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