まほうつかいといぬ



屋上のフェンスにもたれかかって空を眺める。生徒達のプールを泳ぐ、涼しげな音が聞こえてくる。
優等生のイイコで居続けるなんて疲れるだろう、と山下に連れられてきた屋上。

初めて授業をサボった。青葉は、こんなにもドキドキとして、解放感に満ち溢れたコトを今まで知らなかった。


「あついなー」
「だね」

蝉の大合唱が煩わしい。
岩に染み入る蝉の声、とは呆れたものだ。染み入るどころか、飽和して岩がミンミン鳴いている。

「地球温暖化だー」
「もうそれ聞きあきた」
「松岡修造の到来だー」
「耳にタコ」
「戦争寸前、全人類が怒ってるからだー」
「いいねそれ。おもしろい」

山下の首筋を汗が伝う。額に張りついた髪、気だるげな目。ボタンを二つ開けたカッターシャツは、いやらしくなく爽やかだ。
うちわ代わりの下敷きを仰ぐ度に独特で滑らかな音が鳴る。

「第一!太陽が赤だからあちいーんだよ」
「ぼくには白に見える」

太陽を見上げて、後悔。眼球の裏を刺されたような鈍い痛みに目をつむる。赤い瞼の裏に、白い残像。

「イメージ、イメージじゃん」
「実際も熱いけどね」
「あいつ、海に沈めて青にしちまおうぜ」
「でも『アデル、ブルーは熱い色』」
「それは映画だろ。ずりい」

山下は笑うと、うちわとして使っていた青い下敷きを持ち上げた。

「ほらな」
白かった太陽が、青く塗られる。

「ちょっと涼しい」
「目、痛めるよ」
「いいんだよ。今さら目の二つ三つぐらい」


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