とろける恋のヴィブラート
「っ!?」


「おっと! あ……おはよう」


「おはよう、ございます」


 廊下の角を曲がると、出会い頭に大きな影とぶつかりそうになって顔を上げると、そこには少し驚いたような柴野の姿があった。


「ごめん、書類見ながら歩いてたから気付かなかった」


「いえ、私こそ……」


 一瞬、お互いの間に気まずい空気が流れて、柴野にどう声をかけようか逡巡していると、柴野がやんわり微笑んで耳打ちをするように言った。


「いつも通りにするんだ。いいね?」


「は……い」


(私と柴野さんはもう上司と部下。それ以外、なにものでもないんだから……)


 スっと柴野が横を通り過ぎ、大きく深呼吸すると高ぶっていた神経が、徐々に落ち着きを取り戻した。
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