とろける恋のヴィブラート
「すみません、こんな事して……御堂さんにはちゃんと恋人がいるってわかってます」


「……は?」


「桐島瑞希さんって、雑誌でしか見たことないんですけど、素敵な人ですよね。あはは……やだな、私……なんで泣いてるんだろ、すみません、もう遅いし失礼します」


 これ以上、御堂に卑屈で惨めな自分を晒したくなかった。奏は前髪に滴る雨をそっと拭うと、踵を返した。


「待てって言ってるだろ! お前、人の話を聞けよ!」


 再び腕を掴まれると、くるりと半ば強引に御堂の方へ向かされて、今にもこぼれ落ちそうだった涙が散った。


「そうやって何でもかんでも自己完結するなよ。桐島瑞希が恋人だって? そんなこと誰が言った?」


「そ……それは――」


「あいつは俺の叔母の娘だ。母方のな」


「へ? じゃあ……」


(……い、従兄妹?)


 あまりにも突然のカミングアウトに、奏は目が点になった。
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