伊賀襲撃前夜
「遅くなり、申し訳ございません」
部屋に入る障子の前で成葉はそう告げると、障子の前に待機していた侍女に小声で、
「ありがとう」
と目配せした。
侍女はにっこり成葉に頷き、障子を開ける。
「それでは、早速、参りましょう」
成葉を見ると五関は直ぐに立ち上がった。
「それでは警護の者を…」
「いや、伊賀の者を連れる訳にはいきません。それでは信長様を疑うことになります。織田へは成葉様一人で来て頂きます」
「一人でっ」
「父上、心配はいりません。私は一人で大丈夫です」
「成葉…」
「それでは急ぎましょう。夜が明けては、なんの意味もありませんので」
五関と成葉は人目に付かないようにそっと屋敷を抜け出し、織田へと向かって歩き出した。
「…これで本当に良かったのでしょうか」
成葉が去った後の部屋でじっと目を閉じ座り込んだままの父の元に、成葉の母が来て隣に座った。
父は、目を開ける。
「織田と戦になれば、必ず負ける。かといえ、今更織田と和平を結ぶと言っても賛成するものはいないであろう。しかし、今、戦にならずにしばし時が過ぎれば、皆も冷静に事が考えられるようになる。その時、織田と対等の同盟を結んだとすれば、皆も納得してくれるであろう」
「…成葉の生き方は無駄ではないのですね」
「当たり前だっ。我が家は伊賀の頭領の家。一時の感情に捕われず、伊賀存続の道を一番に考えねばならぬ。それを成葉もわかってくれたのだ」
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