満たされる夜
そんなに強い口調で言ったつもりはなかったのに、遠藤は口をポカンと開けていた。

別れ話をされたとき、私は怒らなかったんだっけ。
こんな男を好きになった自分に呆れてたんだ。


「言われなくてももうおしまい。奥さんも子どもも、何かあったらあんたの責任!ちゃんとしなさいよ」


私は荷物をまとめて、お財布から五千円札を取り出すとテーブルに置いた。
これが手切れ金なら、安いものだ。


「それから伊丹課長は本当はモテるから」


「は?モテるって何だよ?おい、めぐ!」


その声に応えず、振り向くこともなく、居酒屋の個室を出た。

私は彼のどこが好きだったんだっけ。

愛されることのない男に抱かれ続けていたなんて、私は本当にバカだ。
< 15 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop