満たされる夜
「お水、ください」

「自分で取りに行け」



明日は休みだし、朝になるまでここで寝かせてやるか…。


そんなことを考えていたとき、田崎がフラフラと近づいてきた。

俺の手から飲みかけのペットボトルを取ると、そのまま口をつける。

ミネラルウォーターがどんどん、流れ込んでいく。


「おい、何やってるんだ」


思わず田崎の手首を掴んだ。

細い手首…本気で握ったら折れそうだ。



少し厚い、濡れた唇。

さっきまで眠っていたからか、目がわずかに潤んでいる。


「課長、眉間にシワ!良くないですよー。いっつも恐い顔して。仏頂面!」


田崎は急に笑い出す。
こんなふうに笑っている顔を見たことがあっただろうか。いや、ない。
社員の普段の顔を気にしたことがないからかも知れないが。


右頬にえくぼが一つ。
自分でも気がつかないうちに、手首を握る手に力を入れていた。
< 25 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop