満たされる夜
胸まである髪は毛先にパーマをかけているのか、ふわりとしている。
女はこういうのが好きなんだろうか。
若い女性社員は皆同じように見えてしまう。
それだけ俺が年を取ったということか…。



だけど、触れてみたいと思った。

この髪の毛に。頬に。唇に。


「無防備なことをするな。男が本気になったらどうなるかくらい分かるだろう」


俺を見上げる田崎は目を逸らすこともない。
少し丸い、形のいい目だ。


「分かりますよ。課長、どうして私を家に連れて来たんですか?あの場に捨ててきてくれて良かったのに」


見捨ててくるつもりだった。

部下相手にこんな気持ちになるつもりじゃなかった。

忘れていた俺の中の“男”が呼び覚まされるような気がした。


「……連れて来るんじゃなかった」


掴んだ手首を引き寄せると、逃げられないように真っ先に唇を塞いだ。
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