満たされる夜
「ま、アレだな。伊丹さんは不倫された側、お前は不倫した側、お互い分かり合えるんじゃねーの」


裏切った張本人が言うことか…。


「こんなところで下手なこと言わないでよ。あんただって私を裏切って―――二股かけた挙句にその相手とくっついたんだから、した側なんだからね」



誰が聞いているか分からないんだから、もし誰かの耳に入ったら面倒なことになる。


「めぐ、ずいぶんと違うタイプの男を好きになったもんだね。俺と正反対だもん」


私は課長のことを好きになってるの…?



「まあそんなわけで、伊丹さんは彼女も作らずに仕事一辺倒らしいぞ」


遠藤が鼻で笑ったような気がする。
恋人がいなくても結婚していなくても、それはその人の人生だし、どれが幸せかなんて他人には決められない。


「俺が知ってるのはコレだけ。あとは伊丹さんに直接聞いてみろよ」

それだけ言うと遠藤は食べかけのカツ丼を持って、違うテーブルに移動して行った。


課長の過去に立ち入るなんて私には出来ない。
私はただの部下なんだから…。

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