バターリッチ・フィアンセ


――真澄くん。

私は昼間の彼とのやり取りを思い出し、真っ先にその顔を思い浮かべた。

どうして彼が、昴さん本人にそのことを告げたのかわからない。

だけど、こうなってしまったら、もう隠しておく理由なんて……



「……知って、ます」

「じゃあなんですぐ逃げないの?」



私が答えると、間髪入れずに馬鹿にしたような口調でそう聞いてきた昴さん。

逃げる……そんな発想はもともとない。

だって、昴さんは怖くないもの。

むしろ、苦しんでいるのは彼の方に見えるんだもの。



「そばに、いたかったから……」



こうしている今も、昴さんは苦しそう。

彼の瞳に涙はないけれど、心では泣いているように思えて仕方がない。



「昴さんを、助けたかったから……」



そんなことを言われても、あなたにとっては迷惑かもしれないけど。

私はもう、あなたに関わらずにはいられない。

それは、ただ“婚約者だから”という義務感なんかでは決してない。

もっとわかりやすくて、基本的な気持ちが、私の中に息づいているせい――。



「あなたを、愛してるから……」



大きく見開かれた昴さんの薄茶色の瞳に、今度は本当の涙が浮かんだ。


彼はすぐに目を伏せてそれを見えないようにしてしまうと、私の身体をつぶれそうなほどきつく抱き締めてきた。






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