バターリッチ・フィアンセ
「織絵」
「はい……」
何を言われるだろう。
ぴったり合わさった彼の胸が脈打つリズムから、負の感情は伝わってこない。
できることなら、私と同じ気持ちでいてくれたらいいのに――……
そう願う私の胸は、期待に高鳴っていたけれど。
「――――ありがと、な」
それはとても静かな、優しい囁きで。
優しすぎて、何かを諦めているような寂しささえ滲んでいる気がした。
「昴さん……?」
そっと身体を離して彼の表情を窺おうとしたけれど、すぐに目を閉じた彼の顔が迫ってきて唇を塞がれてしまった。
開けっ放しのクローゼットの前、私は昴さんの逞しい腕にしがみつく。
繰り返されるキスに徐々に脳は甘く侵され、彼の「ありがとう」の意味を考える力が奪われていく。
そして代わりにもたらされたのは、私の“愛してる”がきっと伝わったんだと、そんな呑気で平和すぎる思いだった――――。