バターリッチ・フィアンセ
○彼らの共通点


――とっても幸せな夢を見た。

noixの店舗が大きくなっていて、従業員がたくさんいて。

前に昴さんは要らないといっていたけれど、買ったパンをその場で食べられるイートインスペースまでつくられていて。


厨房には相変わらず真剣な顔でパン生地をこねる昴さんと、それをお手伝いする私。

こうしてみると、お似合いのふたりね。なんて微笑ましく思っていると、眠りが浅くなってきたらしく、夢の映像が薄れてきて……



「……今、何、時……?」



まぶたの向こうは明るい気がする……ってことは、七時くらい……?



「―――寝坊!」



久しぶりにやってしまった。

だって、夢の光景が幸せすぎたからずっと見ていたくて……って、そんなこと言ってる場合じゃない!


ああ大変、昴さん、どうして起こしてくれなかったのかしら……!


がばっと布団から抜け出て隣の寝床を見ると、もちろんもぬけの殻。

慌てて階段を踏み外しそうになりながら私が下に降りてみると、当たり前だけど彼の姿はなかった。



「とりあえず、顔洗って、着替え……」



冷たい水でさっと洗った顔をタオルで拭きながら、仕事着をしまってあるクローゼットを勢いよく開く。

そして目に飛び込んできた光景に、私の思考が一瞬フリーズした。



「……どう、して?」



規則正しく並んでいたはずのハンガーに掛けられていた服たちが、ごっそり半分なくなっている。

半分……というか、私のものはちゃんとあって、なくなっているのは全部昴さんの――――


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