バターリッチ・フィアンセ


「でも、具体的にはどうやって……」

「そうね……探偵を雇ってもいいし、確か陽一さんの知り合いには警察OBがいたはずよ。とにかく色々当たってみて……」


顎に手を当てて、琴絵お姉様がそう話していた途中。

バタン!と勢いよく部屋の扉が開いて、私たちは驚いて音のした方へ注目する。

そこには、肩で息をする……珠絵お姉様の姿が。



「織絵! 婚約破棄されたんですって!? どういうことか説明して!」



こ、婚約破棄……?

あまりに端的すぎる言葉に、私は目を丸くする。



「……あらあら。使用人たちはそこまで尾ひれをつけて噂しているのね……」



琴絵お姉様は呆れたように呟き、珠絵お姉様を部屋の中に招き入れると、私に代わって実際に何が起きたのかを彼女に説明してくれた。



「……そんな別れ方、納得いかないわね。探し出して、本音を聞き出しましょう」


苛立ち気味に、珠絵お姉様が言う。


「珠絵ならそう言うと思ったわ。……織絵、あなたには味方がこんなにいるの。泣いている場合じゃないわよ」


琴絵お姉様がいい香りのするハンカチを私に差し出してきて、私はそこに顔を押し付けた。


泣いている場合じゃないなんて言われても、この涙はお姉様たちのせいでもあるのよ?

二人とも、本当に、お節介なんだから……

でも……そのお節介が、今はとても嬉しい。



「うん……ありがとう、二人とも」



私だけではそんな決断はできなかった。

昴さんの真意もわからぬまま、悲劇のヒロインぶって、この恋を終わりにしてしまうところだった。


ねえ、昴さん。

あなたが復讐しようとした相手は、あなたよりもしつこいみたいです。

どこにいたってきっと探し出してみせます。


そして見つけ出したら、今度こそあなたのそばを離れないから――――。


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