バターリッチ・フィアンセ

でも、城戸さんは反省する素振りもなく、やれやれと言った感じにため息を吐き出して言う。


「……お嬢様とおんなじで、冗談が通じない人種なんだね、あんたも。服はちゃんと買ってやるから心配するなって」

「……本当ですか?」

「ホントホント」


全然信用できない……。真澄くんも同じ思いなのか、私を未だ背中に隠したままだ。


「城戸さん……これだけは覚えておいてください。もしもあなたと一緒になることが織絵お嬢様の不幸につながるなら、僕は全力で妨害しに来ます」

「真澄くん……」


さっきは突き放すようなことを言っていたけれど、やっぱり私の幸せを願ってくれていることに変わりはないのね。ありがとう……

と、真澄くんの優しさに感動していたのもつかの間。


「そうなれば、織絵は晴れて“自分のもの”になるとでも思ってるのか? やり方がやらしーね。執事くん」


城戸さんはそんなことを言って、真澄くんをさらに怒らせた。


「なんですって……?」

「ヒーローのつもりかもしれないけど、下心見え見えなんだよ。さっさと織絵をこっちに返せ」

「下心って……! あなたにだけは言われたくない!」


ああ、どうしよう。そもそもどうしてこんな喧嘩になってしまったんだっけ?

きっと、私がはっきりしないせいよね。

さっきはちょっと心細くなってしまったけれど、真澄くんがいつでも味方になってくれるということは再確認できたし、ここへ来たのは、城戸さんと大好きなパンについて深く理解するため。


狭い部屋にも、新しい人間関係にも、勇気を出して飛び込んでみなくちゃ――……


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