バターリッチ・フィアンセ
――ザッ、と一斉に音を立てて俺の目の前に立ち止まったのは、大勢の女性たち。
しかも、ほとんどが顔見知り。
店を開いていた頃は毎日のように顔を合わせていた彼女たちは、そう……noixの常連だった、お客さんだ。
「……どうしたんですか、皆さんお揃いで」
俺はつとめて平静を装い、軽い調子で聞いてみる。
けれど彼女たちは何も答えず、たくさんの瞳だけが一気に俺を射抜く。
それに怯んで一歩後ろに下がると、今度はさっき背後で「店長さん」と大声を出していた彼女もその集団に加わり、俺に無言の圧力をかけてきた。
――どうなってるんだ、一体。
なんでみんな、俺がここにいることを知って……
そこまで考えてから、思い当たる人物が一人しかいないことに気付く。
もしかしてあの執事、俺をハメたのか……
ってことは、織絵の食欲がどうのというのもまさか――――
そんなことをぐるぐる考えつつも、常連たちの眼差しが迫ってくる。
じりじりと後ずさりしていた俺だったけど、ついに背中が三条家の冷たい門にぶつかり、逃げ場を失ってしまった。
するとそのタイミングを待っていたかのように、常連たちは次々口を開いた。
「店長さん! どういうことなのか説明してください!」
「何も言わずにお店を閉めるなんてひどすぎます!」
「今ここで、私たちの納得するように事情を話してください!」
「三条家の前に居るってことは、あのお嬢様が一枚噛んでるんですか!?」
――ちょっと、待ってくれ。
確かに悪いのは何も説明してない俺だけど、そんな一気に詰め寄られたら、答えられるものも答えられない。
常連たちの勢いに押されて、何も言えずに困り果てていると、ふと、背中の硬い感触が離れて行くのがわかった。
門が、開いた……?