バターリッチ・フィアンセ

「今から隣で袋詰め手伝え。フィリングが付きそうなのはフィルムで保護してから、一つ一つ透明の袋に入れる。その数に応じて最後に店の袋に入れろ。バケットだけは紙袋で……」

「ちょっ! ちょっと待ってください! そんなにいっぺんに覚えられるわけ!」

「……昨日買ったメモとペンは?」

「も、持ってきてません……」


その返事を聞くなり、昴さんは明らかな失望の眼差しを私に送った。

よく考えたらそうよね……仕事を覚えるのに手ぶらで来るなんて、これは間違いなく私の失敗だ。


気まずくなってうつむくと、ちょうどレジの順番だった主婦が私たちの顔色を窺うように穏やかに話し出した。


「店長さん、こちらの可愛らしい方は、新しいアルバイトの方かしら?」

「ああ、すいません。お見苦しいところをお見せして。実は彼女は婚約者でして」


「婚約者!?」という声が、店内のあちこちから聞こえた。


綺麗だったはずのレジまでの列が急に乱れ、私の顔を見てはコソコソ話を始める主婦たち。

その目は全然好意的なものではなくて、私は肩をすくめる。

……なんだか、とてつもなく居づらい。


「……意外だわ。店長さん、いくつだったかしら? まだお若いから遊びたい盛りだとばっかり」

「いえいえ。確かにまだ二十六ですけど店が忙しくて遊んでる暇なんてないですよ。彼女との出会いも知人が設定してくれたお見合いでしたし」


「お見合い!?」とまたも列が乱れざわめき、私はなんだか消えてしまいたくなった。

こんなの、晒し者だわ……

別にいいじゃない、昴さんが誰と出逢って結婚したって……


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