バターリッチ・フィアンセ

「そっか、三時半…………って」


三時半!? 夜中のですか!?

口をぽかんと開けて固まる私に昴さんは苛つきを滲ませ、腕組みをした手の人差し指で自分の腕をせわしく叩きながらため息をついた。


「俺はちゃんと起こしたぞ」

「あ……もしかして、あのアラーム、夢じゃなかったんですね……」

「聞こえてたのに無視したのか」

「む、無視って言うか……どうしても、眠気に勝てなくて」


銀の作業台に腰をもたれさせて立っていた昴さんが、静かにこちらに近づいてきた。

私は悪いことをして廊下に立たされている生徒みたいに決まりが悪くて、片手で自分の腕をきゅっと抱く。

また怒られる……固く目を閉じ、雷が落ちるのを覚悟していると――。



「――今夜、オシオキな」

「ひぁっ!」



濃密な息とともにそんな言葉が耳に吹き込まれ、耳を押さえて後ずさった私を、昴さんはけらけらと笑う。


「やっぱ楽しいわ、織絵。でも、遊びはここまで。時間がないんだ。こっち来て」


そ、そんなすぐにこっちは気持ち切り替えられないんですけど……! とは、怖くて言えない。


手招きされて近づいた作業台の上には、すでに焼く準備が整っているように見える丸いパンの生地。

表面にキラキラ光っているのは、グラニュー糖……?


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