バターリッチ・フィアンセ
「これにスケッパーで網目入れてくから、俺のよく見てやり方覚えろ」
「網目……もしかして、メロンパンですか?」
「そういうこと。まさか今日も手ぶらで来たってことはないよな?」
……よくぞ聞いてくれました! 今日はちゃんと持ってます!
私は腰に巻いたエプロンのポケットから、得意げにそれを取り出す。
「……メモするくらい誰でもできる。俺が一個やったらあとは全部織絵がやれ」
「全部……ええっ!?」
一度しかお手本を見れないうえ、私がそれ以外を全部やるっていうの?
もし、歪な網目ができてしまったら、昨日のピザパンみたいに捨てることになりかねないんじゃ……
「やる気ないなら部屋帰れば?」
……やっぱり、鬼だ。仕事中のこの人は。でも、負けてたまるもんですか。
私は冷たい目をした昴さんを、挑戦的に見つめ返して言う。
「やります。やらせてください」
「ん。いー返事。じゃあさっさとやるぞ」
「はいっ!」
まさか、二日目にしてそんな大事な仕事を任されるとは思っても見なかった。
それでも、私は昴さんのスパルタ指導に必死に食らいつき、数個の失敗作を出したものの、無事にメロンパンをオーブンへ入れることができた。
そうしてほっと一息ついていたのもつかの間。
空いた時間にカスタードやアーモンドクリームやジャムの作り方を教わったり、材料や器具の名前を覚えたり。
お客さんが来ればお店に出て接客もやらされたので、時間はめまぐるしく過ぎて行き、あっという間に一日が過ぎて行った。