バターリッチ・フィアンセ


「ありましたよ、ノワのホームページ」


夕食後の私の部屋。

真澄くんの手がカチカチ、とマウスを操作して、そのリンクを開く。

そしてトップページに現れた“今月のおすすめパン”の写真を見るなり、さっき夕食を食べたばかりであるはずの私のお腹が急に空き始める。


「美味しそう……」


七月は、トリプルベリーベーグル、か。

ベーグルのもちっとした生地に、甘酸っぱい苺とブルーベリーとクランベリー……

ああ、その味を想像したら今すぐ買いに行きたくなってしまう。

目を輝かせてパンを眺める私を見て隣でふっと笑った真澄くん。

相変わらずですね、と思われているのだと思う。実は、私の趣味であるパン屋巡りにいつも付き合ってくれているのは、他でもない真澄くんだから。


「ブログもほぼ毎日のように更新されているみたいです。
“今朝の朝食はエッグベネディクト”……どうやら城戸さんという方は、パン作りだけでなく、料理全般が得意な方のようですね」


真澄くんの言う通り、ブログの写真も、カフェメニューのようなお洒落な料理がたくさん並んでいた。


「素敵ね……私にも作っていただけるのかしら」

「それは奥様になられれば、当然ではないですか?」

「嫁ぐ前に、私も料理の練習をしなきゃ恥ずかしいわね。城戸さんにばかり頼るわけにはいかないだろうし……」


そう言いながらも、エッグベネディクトの半熟卵が溶け出す瞬間の写真からなかなか視線が動かせない私。

明日、真澄くんと朝一で近所のパン屋さんにイングリッシュマフィンを買いに行って、シェフに作ってもらおう。

自分で作れればいいけれど、ポーチドエッグどころかゆで卵も作ったことのない私には、この写真のような料理は作れないもの。


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