バターリッチ・フィアンセ
「僕から……それとなく旦那様に聞いてみましょうか」
「え……?」
「もし、何か旦那様に思惑があって城戸さんとお見合いをさせたのだとしたら、お嬢様本人にはきっと言わないでしょう。
でも部外者の僕にならば、何か話してくれるかもしれません」
お父様の、思惑……。
確かに、本当にそんなものがあったとして、私に話す気があるならお見合い以前に聞かせてくれているはず。
つまり、今から私が聞いても、父は本当のことを言ってくれないかもしれないってことになる。
ここは、真澄くんに探りを入れてもらうのが賢明なのかもしれないけれど……
「……だけど、そんなことして大丈夫かしら。私専属の執事とはいえ、直接的にあなたを雇っているのは父よ。
もしも、得た情報を私に漏らしていると気付かれたら、あなたの立場が……」
「――その時は、その時です」
コツ、と真澄くんが空のグラスをテーブルに置いた。
そしてソファからスッと立ち上がった彼は、こちら側のソファの、私の隣に腰を下ろすなり、横からふわりと私を抱き締めた。
「ま……真澄くん!?」
いくら彼が優しくて、いつもそばに居て私を支えてくれる存在だったとしても……こんなことをされたのは、初めて。
驚いた私の手の中にあった食べかけのマカロンが、絨毯の上に転がる。
「申し訳ありません……でも、もう我慢の限界なんです」
耳元で聞こえた声は、彼の言葉通りに、何か必死でこらえていたものが溢れてしまったように、上擦って震えていた。
「僕は、ずっと前から織絵お嬢様を……」
少し身体を離した彼が、真剣な眼差しで私を見つめる。
こういうことに疎い私でも、その先に続く言葉がなんとなくわかったから、胸の鼓動が早まって、顔に熱が集中してくる。