バターリッチ・フィアンセ


――その時、ベッドの上に無造作に置いてあったバッグの中から、スマホの着信音が鳴り響いた。

真澄くんはゆっくりと息を吐き出して私から離れると、気まずそうに黒髪を撫でながら言う。



「……出てください。城戸さんかもしれません」

「う、うん……」



未だドキドキの止まらない胸を押さえつつ、私はバッグからスマホを取り出し誰からの着信なのか確認する。

それは、真澄くんの予想通り彼からのもので――



『あ、織絵? 今どこ?』

「ええと、あの……実家……です」



咄嗟に本当のことを言ってしまい、私は後悔した。

なぜなら昴さんは、私がこの家に帰ることを、良く思っていないような気がするから。



『……だと思った』



……ほらね。彼の声が、影を纏った。


「あの、もし昴さんの用が済んだのなら、すぐにでも帰りますけど……」


彼の機嫌を窺うような話し方をする私を、離れた場所から真澄くんが心配そうに見ている。


『……いや、まだこっちは終わってないから、織絵はそこでのんびりさせてもらいな。
ただ……ちょっと一つだけ。あの執事、どーせ近くに居るんでしょ? ちょっと代わってくんない?』


“執事”というワードに、ぎくりと肩が震えた。

昴さんが居るのが電話の向こうでよかったと思いながら、けれど不穏な空気を感じ取り、私は言う。


「あの……彼に伝えることがあるなら、私が代わりに……」

『ダメ。直接話させて』


即答、ですか……。私は諦めてスマホを耳から離し、真澄くんにそれを手渡した。


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