ギャップ彼女 1
「ただいま』
バイト先から自転車で10分のところに我が家がある。
「お姉ちゃんおかえり~」
そう答えたのは、小学4年生弟の凛久(リク)だ。
「おかえり」
ニッコリ笑うのは、母、麻理。
『パパ…ただいま』
仏壇の前に座り、手を合わせながらボソリと言う。
8年前、天国に行ってしまったパパ。交通事故だったらしい。
らしいというのは、私は知らないからで…
……というよりその頃の記憶がない。
すっぽりと記憶が抜け落ちていて、気付けば病院のベットの上だったんだ。
最後の記憶は、確か夏休みに入ったばかり(そのあたりもうろ覚え)だったのだが、目を覚ました時には、季節は変わりなんと秋になっていて…
軽くタイムスリップした感じで、自分でも不思議な感覚だった。
記憶のない私には、パパが亡くなったなんて信じられなくて、その当時たくさん泣いた。
なんせ、パパのお葬式にでた記憶もない。薄情な娘なんだ。
"どうして私は病院に寝てたの?"
"どうして私は記憶がないの?"
小さい頃、1度だけお母さんに聞いた事がある。でも、その直後「リン…ごめんね…」と涙を流した母の姿を見てから、聞けなくなってしまったんだ。
いつも笑顔の母でいてもらいたい…そう思ってたから。