輪廻する今日、六月一日。
 ドクン、ドクン。

 ……家族を殺す、かぁ。殺す理由が特に無いし、罪悪感が芽生えるのが目に見えていたからノータッチだったんだけど、でも、殺してみるのもちょっとはあり……――いや、やっぱり出来ないや。

 ドクン、ドクン。

 ……。んー、どうせ次に目を覚ましたら元通りになっているんだし、1回くらいなら……いいかな?

 ドクン、ドクン。

 1回くらいなら……。

 ドクン、ドクン。

 1回、くらいなら――。

 好奇心というモノは怖いモノでして、僕はすぐにベッドから飛び降りると、机の中に隠してあったナイフを手にする。

 同時に、部屋の扉が開かれ、お母さんが姿を現したので、僕は慌ててナイフを後ろに隠した。


「あら、起きていたんじゃないの。もう、起きていたんなら、返事くらいしなさいよね」


 ちょっとムッとした表情を浮かべるお母さんを見て、決して表には出さないけど、僕の心の中は嬉しさでパァッと明るくなった。

 お母さんが部屋に入って来た際、僕がベッドの上にいないと、そんなふうに話し掛けてくるんだ。新発見だね。


「今、起きたところ」

「そうなの?はやく支度しないと、遅刻しちゃうわよ」


 そう言って僕を背を向けるお母さんに、口元が無意識のうちに緩むのが抑えられない。
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