甘くて苦い
コンコン。
チャイムではなく、ドアをノックする音が聞こえた。
パジャマの上にカーディガンを羽織りながら玄関に向かうと、チェーンを外してドアを開ける。
待ってましたとばかりに、速水君が両腕を広げて入ってきた。
「寒かったー。」
「はいはい、静かにね。」
2年ほど前から、速水君は酔うとハグ魔になる。
始めの頃はときめいたり、戸惑ったりしたが、今ではすっかり慣れてしまった。
お酒とタバコ。
それと、整髪料の香りが少しした。
宥める様に速水君の背中を軽く叩き、空いた手でチェーンをかけ直す。