この道を、君と
「偶然だな、ここで会うなんて」

って、偶然なんて世の中にはないか

そう言って砂都美との距離を詰めてくる

「どうしたんだ」

「柊二こそ」

まだお迎えの時間じゃないでしょ

「ああー、俺はあれだ。なんか虫の知らせというか野生犬並みの嗅覚が反応したというか、散歩に出て、ふらふらしてたらちょうどノゾキをする砂都美を発見したと」

「覗きなんてしてないわよ」

人を変態みたいに言わないでくれる?

眉を寄せた砂都美を見て、柊二が噴き出す

その一拍後に砂都美も笑い出し、二人分の笑声がこだまする
「久しぶりだな、こういう風に笑ったの」

まだ完全に笑いが止まっていない柊二の言葉だ

「そうね」

まるで恋人の時に戻ったみたいだ

「いつも行ってたカフェ、行かないか」

おごるから

言葉はおどけて、けれど口調はまじめに柊二が道路の先を指さす

ええ、と頷いた彼女の表情は、あの頃の優しいほほ笑みを思い出させた
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