妖精と精霊と人間と
 「トロール・・・お前、ヘイトレッドのトロールか?」
 娘はトロールに近づいてそう聞いた。トロールが静かに頷くと、娘は目を涙でいっぱいにしてトロールに抱きついた。
 「ごめんなさい、ごめんなさい!あの時、私を滅してくれたお前を、私を救ってくれたお前を・・・忘れるなんて・・・ごめんなさい・・・・・・生まれ変わったら、ずっと言おうと思っていたの。トロールよ・・・ありがと―――ぅ?」
 トロールがにっこりと微笑むと、娘の全身に温かい物が降り注いだ。血だ。娘がトロールを見上げると、トロールに斧や弓矢が何本も刺さっていた。それでも、トロールは笑顔だった。娘は大声を上げた。トロールがその場に倒れると、それに覆い被さって娘は思いっきり泣いた。今までの分もまとめて泣いた。
 「大丈夫じゃったか?のう、エアリエル。」
 村長だ。彼が、村の男を引きつれてトロールを殺しに来たのだ。
 「思い出したぞ・・・悪霊・デネィシス!我を氷魔・フラウに変えた罪、忘れたとは言わせないわ!!」大気の精はそう叫ぶと、その両腕を死なずの悪霊へと向けた。「村に掛けられし永遠の呪いよ、この者の死によって消し去られよう!クラウヅ・オヴ・ダスト。」
 彼女がそう唱えると、デネィシスは砂へと変わった。そして、宙に舞った砂煙は大気の精・エアリエルの体内へと吸い込まれて行った。

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