妖精と精霊と人間と
 師匠は、苦しそうに目をあけた。そして、バンクスを見上げた。目が悪い彼は、目を細めながらバンクスを見つめていた。
 「そうだ、師匠!起きろ!」
 「最後に、お前の顔が見られて、良かったよ・・・大きく、なったな。」
 師匠は、まるで最愛の息子でも見るかのように、バンクスを見上げその頭を撫でた。
 「師匠!変なこと言うな!」
 「さようならだ、バンクス。だが、泣く事は無い。死は、始まりにすぎん。」
 その言葉に、周囲の空気が固まった。そのセリフは、前々から自分の死を予言し、いつ死ぬかさえも把握しているような物言いだった。
 「嫌だ!師匠、まだ逝くな!」
 バンクスの涙が、師匠の顔にぽたぽたと降り注いだ。
 「じゃあな・・・バン、クス・・・・・」
 「・・・・シショー!!」
 その場にバンクスの声が響いた。彼の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。あまりにも残酷だった。久しぶりに会った師が、何をするでもなく、一言二言言葉を交わして朽ち果てたのだ。彼は声をあげて泣いた。砂にならない師匠の身体をぎゅっと抱きしめて。残酷な事に、その身体はまだ温かかった。それはまるで、眠っているかのようであった。それが、さらに彼の悲しみを増幅させた。彼の顔は、涙でグシャグシャだった。
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