妖精と精霊と人間と
 どのくらいの時間が経ったのだろうか。二人の体力が限界に近づいた時、次が最後の一発となるかと思った時、青と黒の―――そう、まるで群青色のような光がデントの目の前を通り過ぎた。その光は、『役立たずが!』そう呟くと、窓から上の階へと飛び去っていった。
 「明?!」
 デントがそう呟くと、マンティコアはその場にドシャッと崩れ落ちた。そして、赤い毛の塊は灰になっていった。
 デントがしばらくその場で呆けていると、リデロが階段を駆け上がってきた。
 「デント・・・終わったのか?」
 デントがうつむいていると、セリアのオークとドワーフのみにつたわる低い声で、リデロが言葉を発した。その音は、汚い低い声ではなかった。とても綺麗な、美しい低音だった。
 「何があった?」
 「明が来たんだ。俺を助けていった。でも違う!あれは明じゃない!明は・・・明の目は!もっと優しいんだ。あんな冷徹な目、俺は知らない。たぶん、誰もあんな明の目は知らない。たとえ、美咲たちでも。」
 デントがそう言うと、リデロはデントの肩にポンと手を置いた。どうやら、デントは標準語だけが苦手のようだ。
 「確かめに、行くんだろう?」
 リデロがそう言うと、デントは立ち上がった。そして、二人は階段を駆け上がった。明がどうなったのかを、その目で確かめるために。
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