妖精と精霊と人間と
 その日の放課後。図書室が閉館となる五時まで、後一〇分と言う時だ。三人は図書室のドアを開いた。すると、先ほどよりざわめきはあるが、やはり静かな図書室に嵐はいた。先ほどと同じ席に、先ほど同じようにして本を広げ、そして立っていた。
 「北斗さん、紺野さん、聖堂時さん。今日は来て下さらないのかと想いましたよ。」
 そう言って、嵐はにっこりと微笑む。その笑顔を見て、明が鼻の下を伸ばす。美香の明を呼ぶ声と共に、彼女のひじが明のミゾに上手い具合にヒットする。明は腹をおさえて、苦しみながら悪態をついていた。
 「大丈夫だよ、来るから。僕は約束を守る主義だからね。」
 そう言って、北斗はにっこりと微笑んだ。北斗がそう言うと、美香は机の上に広げられている本の最初のページが目に入った。そこには、『バジル・ホルモン』としか書かれていなかった。
 「あれ?これってギリシャ語だよね?」
 美香がそう言って、その本のページを真剣に見る。
 「ええ。多分そうかと想いますよ?・・・読めますか?」
 「うん。これは・・・確か、ギリシャ語で『バジル』が『王様』、『ホルモン』が『呼びさます』って意味・・・かな?つなげると、『王様呼びさます』なの・・・かなぁ?」
 美香がそう呟くと、本から眩しい位に光が漏れ出した。そして、四人を包み込んだ。包み込まれる瞬間に、北斗は嵐がニヤリと微笑んだのを、見逃しはしなかった。
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