君と歩く未知
 ねぇ、赤ちゃん。 
本当は産んであげたかった。
だってね、妊娠検査薬で初めてあなたの存在を知った時、お母さんはすっごく嬉しかったんだよ。
たとえあなたがカズくんの子じゃなくっても。
あなたを産んで幸せに育ててあげたかった。
その気持ちはきっとカズくんも一緒だったんだと思うよ。
そうじゃなきゃ、こんな風に言ってくれるわけないよね。
『弥生…赤ちゃん、オレの子として産んでよ…』
あなたを自分の子として育てるつもりだったんだよ。
優しいよね、嬉しかったよね…
…本当はね、カズくんにあんな態度を取ったお母さんもその言葉をもらって、すっごく嬉しかったの。
幸せだなって思ったの…
 お母さんは、本当に幸せだよ。
いつも優しい美和ちゃんや、直紀くん、竜平くん…そして、愛するカズくんがいつも傍にいてくれるんだもん。
それにね、ほんの少しの間だったけど、あなたと過ごせて幸せだった。
あなたがお母さんのお腹にやって来てくれて良かった。
お母さんはあなたと過ごした日々を絶対に忘れないよ。
あなたはまだ幼いお母さんにたくさんの大切なことを教えてくれたね…
命の大切さ、生きる素晴らしさ、多くの人との絆…
お母さんは恵まれているんだよね。
 あなたにこの世界を見せてあげられなかったのが、お母さんはすっごく悔しい。
あなたの顔を見てみたかったよ。
あなたの成長を見てみたかったよ。
あなたの笑ってる顔や、泣いてる顔を見てみたかったよ。
…だって、お母さんはあなたが大好きなんだもん。
あなたの顔を知らなくても、声を知らなくても、名前さえ知らなくても…
お母さんはあなたを愛してるよ。
何十年月日が経っても、この思いは変わらないよ。
 きっといつか会おうね。
その時までさようなら。
あなたはずっとお母さんの子だよ。
忘れないよ、忘れないでいて。
またね、赤ちゃん…
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